Knowledge: Leather variation
レザーバリエーション:婦人靴と革の関係
2009年発行 「日本の革 2号」より
どんなに科学が発展しても、靴の材料として革に勝るものはない。通気性があり、足に馴染み、そして耐久性に富んだ特性はこれ以上ないほど靴に向いている。そもそもが肉食文化の副産物であり、天の恵みを余すことなく活用しようとした先人の知恵には大いに敬意を表すべきである。
皮は剥いだ状態で放置すると腐る。これを防ぐための工程がなめしだ。人間が最初に発見した化学変化であり、その歴史は万年前にまで遡れるといわれている。
煙で燻す、噛む、動物の脳みそや脂をこすり付ける、草木の汁に漬け込むなどの試行錯誤を経て、植物の渋を利用したタンニンなめしと化合物を利用したクロムなめしというふたつのなめし製方法が確立した。
近代的設備が整ったことで、現在ではさまざまな革が存在する。しかし残念ながら、紳士靴の場合は色は黒茶、種類も表革かスエードくらいしか存在せず、いささか面白味に欠ける。そのバリエーションの豊富さ、華やかさに関しては圧倒的に婦人靴に軍配が上がる。アッパーに使われる代表的な革を紹介しよう。
パイソン
ヘビの革。爬虫類革にはほかにワニやトカゲ、カメなどがあるが、中でももっともポピュラーなレザー。美しい斑紋が特徴だ。ニシキヘビのほか、海ヘビ、水ヘビが使われる。
ゴートスキン
山羊の革。しなやかな質感があって、婦人靴でお馴染み。一般的に衣料用として使われるシープスキン(羊革)に比べれば丈夫で耐久性に富む。子山羊の革はキッドと呼んで区別する。
ハラコ
腹子と書く。その名の通り、牛の胎児の革のこと。もともとの毛並みを生かした仕上げが多い。死産など特別なケースに限られるため、非常に貴重な革となっている。
ヌメ革
一般的にアッパーにはクロムでなめしたレザーを使うが、こちらはタンニンでなめしたもの。革本来の風合いが生かされているのが魅力。環境問題でクローズアップされている。
エナメル
ウレタン樹脂で表面を覆った革のこと。天然皮革にはない光沢感が特徴で、エレガントな表現に欠かせない素材となっている。雨にも強く、普段使いにもオススメだ。
カーフ
生後3〜6カ月の仔牛の革のこと。キメが細かく、柔軟性に富む最上級のレザーだ。薄く繊細なため、紳士靴に使われることはほとんどない。これに続くのが生後2年までのキップ。
ヌバック
脱毛後の革の表面である銀面をバフ掛けして起毛させた革のこと。起毛革はほかにスエードとベロアがあるが、ヌバックがもっとも繊細で、婦人靴に使われることが多い。
型押し革
プレス加工により表面に人工的な凹凸を施した革。希少な爬虫類革をモチーフにすることが多い。最近は技術が向上しており、ひと目でそれとわからない精緻なタイプも増えている。