Knowledge: History

Knowledge: History

ヒストリー:1000年以上の歴史がある 日本の革文化

ヒストリー1000年以上の
歴史がある
日本の革文化

日本の革の歴史は、飛鳥時代以前に大陸から渡来した人々によって、
革の加工技術の多くが伝えられたとされている。
ここでは、歴史とその地域の特性を紹介していく。

2009年発行 「日本の革 2号」より

伝統の継承

皮革の加工文化は、民族によって多様である。気候、風土、生活様式、文化などによって加工方法は変わるからだ。ヨーロッパなどの大陸の場合、近隣地域との交流によって、さらなる技術がもたらされる場合も多かったという。
日本の場合、大陸から渡来した「熟皮高麗」「狛部」といった呼称の工人たちが革の加工技術を伝えた。つまり、日本の革の歴史は、1000年以上も前にさかのぼることができるのだ。播州姫路地方で当時より革のなめしが盛んに行われ、なめしの工程は、瀬戸内海産の塩による原皮処理→浅瀬で洗い流し→石河原での川漬→脱毛→塩入れ→加湿→菜種の油付け→揉み→さらし→革洗いの反復作業で行われていた。海が近い姫路は、まさに革の加工にピッタリの土地だったのだ。
そのほかの地域でも、同様の技術によって革の加工が行われていた。日本が諸外国に門戸を開く江戸時代までこの技術で革の加工がされ、革は鞍や文庫などに珍重された。現代の主流となっているタンニンなめしやクロムなめしは、明治時代になって伝えられ、現在にいたる。

Leather culture 01

北海道・東北

独自の文化が
栄えた北海道地域

北海道は独自の気候と、冬場の厳しい自然で知られる。その地ではどのような皮革が伝えられてきたかのかというと、古くから発展してきたアイヌ文化では、獣皮だけでなく鮭の皮もなめして靴などの日常用品に使われていた。馬の育成や牧場などが飛鳥時代より多数ある東北地方では、履物製造に歴史があり、現在でも山形県や福島県では地場産業としてその技術は伝えられている。

Leather culture 02

関東

家内制手工業的な
技術発展

東京では袋物の製造が盛んに行われてきた。浅草周辺では袋物に限らず、靴、ベルトといった革製品の工場が軒を連ねている。また、その原料となる革を供給すべく関東近郊には、なめし工場も多数ある。東京に限っていえば豚革。隅田川、荒川など大きな川があり、革のなめしに適した土地柄で、家内制手工業的な規模の工房も多い。その他、特徴的なのは爬虫類などのエキゾチックレザーの加工工場も多い。

Leather culture 03

中部

鹿革加工の
甲州印伝が今も伝わる

特筆すべきは、甲州印伝だろう。鹿革に模様を付けたもので、ふすべ技法と漆で加工したものがあるのが特徴。武具や小物などに使われてきた。甲州印伝は、江戸時代中期に幕府に献上されたインド装飾革を、国産化したものが起源。全国各地で製造されていたが、今でもその技法は甲州に伝えられている。時代とともに製品は形を変えて、バッグなどに使われるようになり、その人気は根強い。

Leather culture 04

四国

日本を代表する
手袋の産地

日本で作られる革手袋の90%以上が作られている東かがわ市がある四国地方。野球やゴルフをはじめとする一流のスポーツ選手が使用するグローブも、ここで作られた製品が多いという。なぜここまで皮革産業が盛んなのか。そのひとつの理由は土地の特性にあるという。温暖で、雨が少なく、川が多いというこの地域の気候や地勢は、革の加工に適している。世界に誇る、日本の技術がここにある。

Leather culture 05

山陽・山陰

日本刀の代表的な
産地ならではの発展

良質の鋼が取れ、日本刀の産地で知られる山陰・山陽地方。刀の柄や鞆は鮫皮で装飾される。ここで勘違いしやすいのが「鮫」。日本の刀の装飾に使われていた鮫皮とは「エイ」のことである。現在では財布など小物にも使われるようになったこの「エイ」、実は日本の近海産ではなく、南シナ海やインド洋でとれたものが輸入されて使われていた。硬く丸や楕円の文様が特徴のエイ革は、日本刀の美しさにピッタリ。

Leather culture 06

関西

なめしの技術が
古くより伝わる地

革に関する歴史は古く、その加工は奈良時代以前より行われていた。特に姫路のなめし技術は有名で、今もなおその技術と職人魂が伝えられている。なめし事業所数も群を抜いており、成牛革の生産量2位である東京の3倍近い。大きな川が流れ、海が近くにある姫路は、地勢そのものも革の加工に適しているのだ。また、その美しさと強度から、甲冑や武具、馬具や太鼓にいたるまで広く使われ、非常に価値が高いものとして用いられてきた「白なめし」も姫路を代表する皮革のひとつだ。最近までその伝承が危ぶまれていたが、技術の保存に尽力する動きが少しずつだがあらわれてきている。そして、同じく兵庫県にあるのは、鞄の街・豊岡。なんと、日本産の鞄の7割が作られているという。柳行李の製造が起源で、ここも1000年以上の歴史を誇っている。日本で唯一の「鞄団地」があるのも有名だ。

Leather culture 07

九州

女性用履物と
馬の産地

九州は日本開史以来、諸外国の玄関口となってきた。中世~近世にかけては中国よりの文明の伝来。近世に入れば西洋各国からそれまでになかったような新技術が続々と流入してきた。そして渡来人によって革の製法が「上陸」したのは、まさにこの地であった。古くよりその中心となった地である、北九州市は現代では女性用の履物の生産で知られる。また、熊本県は日本有数の馬の産地として名高い。気候が温暖で、革の原料となる畜産も盛んだ。