Creative: Yoshida & Co.

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吉田カバン:ニッポンが誇る 職人仕事の伝承。

吉田カバンニッポンが誇る
職人仕事の伝承。

一針一針、細部にまでこだわり全身全霊で最後まで縫い上げる。『一針入魂』。
それは革鞄からスタートした吉田カバンが受け継ぐ精神。同社のモノづくりの原点とは何か。

2012年発行 「日本の革 5号」より

「鞄づくりに関わる一人ひとりが『一針入魂』の精神で励む」。
それは数々の名品を世に送り出してきた吉田カバンの創業者・吉田吉蔵氏が、一貫して社内に浸透させてきた精神である。
吉田カバンは創業以来、国内生産を貫き、職人と共に歩んできた。3代目社長で現取締役会長の輝幸氏は「社会がグローバル化へと進もうと、日本のメーカーとして、今こそ先達たちが築き上げた“モノをつくる力”を大切に継承していかなければならない」と日本のモノづくりの技術伝承の大切さを説く。社内には、ファッション業界の功労者に贈られるミモザ賞の賞状が掲げられ、受賞者欄には「吉田吉蔵氏並びに吉田カバンの職人衆殿」と書かれている。受賞者は吉蔵氏本人だが、職人たちの名を記すことに最後までこだわったそうだ。
「職人たちと共に成長してきたんだという思いが強かったのでしょう。『日本の職人を絶やしてはいけない』。それは創業者の願いでした」
国内の職人と共に、日本の鞄文化を築き上げてきた吉田カバンと吉田吉蔵氏。その歴史をひも解いてみよう。

1906年に神奈川県寒川町で生まれた吉蔵氏は12歳で鞄職人の道に進み、上野の老舗鞄工房での修行の日々を経て、1935年に29歳で吉田鞄製作所を創業。1951年には株式会社に改組して、職人たちの協力を得ながら、少しずつ量産化を進めていく。吉田カバンがその名を広く世に知らしめたのは、サイドファスナ ーでマチ幅を広くしたり、細めたりできる「エレガントバッグ」で、爆発的な売り上げを記録した。このバッグが開発された1953年当時は、日本に団地が建設され始めた頃。狭い住居で邪魔にならず、しかもスタイリッシュなスマートさを兼ね備えていることが、高度成長期のビジネス マンに支持された。
輝幸会長は「このエレガントバッグから、吉田カバンの『時代に合ったモノづくり』というコンセプトが明確になっていったのだと思います」と言う。創業後の吉蔵氏は経営に従事したが、毎月のように職人さんたちの職場を回り、そして商品を卸した全国のお店へと自ら足を運ぶことも多かった。

旧社屋の写真。神田須田町から現在の本社がある東神田に社屋を移転し、吉田鞄製作所から株式会社吉田に改組。

爆発的ヒットを記録したエレガントバッグ

吉田カバンの名を世に広めたエレガントバッグ。狭い住居で収納スペースの節約ができる機能とスタイリッシュなデザイン性を追求した。

手縫いのトランクは最高技術の産物

手縫いの鞄の中でも箱形のトランクは最も難しいもののひとつといわれている。写真は晩年の吉蔵氏が手掛けたなかでも究極の逸品。

アイデアマンだった、好奇心も人一倍だった

家のフォルムをヒントにしたバッグと馬蹄型小銭入れ。気になったモノはすぐにつくる。晩年でもつくりたいアイデアがたくさんあったという。


つくり手の想いが伝わる
モノづくりへ

1950年代にデザイナー候補の社員を美術大学に通わせるなど、人材育成にもいち早く注力した。また、日本の鞄業界を活性化させようと、エレガントバッグの特許を当時の鞄協会に寄贈した。
「親父はメーカーとしてのアイデンティティを早く確立しようとしていたのでしょう。職人が考えつくり上げた鞄をお店が気に入れば買い上げるという流通から、つくり手の想いが伝わるようなモノづくりへと変革しようとしたのだと思います」
そして1962年、吉田のメインブランドとなる「ポーター」が発表される。当時、鞄メーカーがプライベートブランドを出すことはほとんどなかった。「ポーター」のネーミングは鞄の良さを知るホテルのポーターに由来し、吉田の鞄を持って世界を闊歩してほしいという願いも込められている。吉蔵氏たちが目指したのは、職人たちのすばらしい技術でつくられる鞄が、人々の暮らしの中で文化としてしっかり息づくことである。

改組後は経営に専念し、晩年になり再び手縫いの仕事に没頭していった吉蔵氏。アイデアは尽きることなく、亡くなる寸前までベッドで革に糸を通そうとしていた。


職人さんと膝をつき合わせて

吉田カバンには鞄好きで目的意識を持った社員がどんどん入社するようになる。その熱気につくり手のモチベー ションも高まり、「ラゲッジ レーベル」やロングセラーシリーズが次々と発表され、その名は世界にも浸透するようになった。
そして今、吉田カバンは『一針入魂』の原点を守るための取り組みにも着手している。鞄職人への道を希望する若手社員に対し、製作部という部署を設けて彼らをバックアップしているのだ。20代の社員が現在、協力先の職人の元で修業を積んでいる。
「モノづくりの技術を習得することは並大抵のことではできないことを分かっていながら、本気で臨む彼らの熱意に会社として応援しないわけにはいかない。彼らの方向性は、正直なところまだ模索中。ただ、日本の鞄職人のすぐれた技術の伝承に一役買うことは使命でもあるのです」
吉蔵氏が熱意を持って続けてきた職人とのコミュニケーション。それはいまでも吉田カバンの製品開発の現場で引き継がれている。企画が製品化に至るまで、担当者と職人は打ち合わせを重ね、何回もサンプルづくりを行う。共に、「日本だからこそできる技術で生まれた新しい鞄を、人々に喜んで使ってほしい」という共通した想いで議論をぶつけ合う。
「良い鞄をつくりたい。その想いで親父が職人さんたちと語り合っていた時と同じです」
「理は元にあり」とは吉蔵氏が常に言ってきた言葉だ。吉田カバンのモノづくりの原点すべてがある。大切なのは新しい技術を模索するコミュニケーション。それがメイド・イン・ジャパンの真のチカラなのかもしれない。

株式会社吉田 取締役会長

吉田輝幸

1969年に慶應義塾大学商学部卒業後に、吉田に入社し倉庫で仕入れ・在庫管理を担当後、商品管理部に配属。1990年に専務取締役に、2000年に副社長、2002年に社長、2020年に取締役会長に就任。

バロン
BOSTON BAG

44,000円(税込)

最も歴史が古いバロンは、発売からデザインを変えることなく、吉田カバンの歴史を支えてきた商品の一つ。

ポーター アメイズ
2WAY BRIEF CASE

56,650円(税込)

手触りの良い革を使用し、シンプルなデザインに仕上げたブリーフケース。軽量な作りのため、様々な年代の方にお勧め。

ラゲッジ レーベル エレメント
2WAY TOTE BAG

82,500円(税込)

ビジネスシーンでの使用を意識し、表面は撥水・撥油性に優れた革に仕上げてある。新たな質感・素材感を追求。

バロン
SHOULDER BAG

37,400円(税込)

40年以上たった今もデザインは一切変わることのない代表シリーズ。肉厚で柔らかい革の風合いが特徴的。