Creative: Regal
リーガルコーポレーション:本物のみが放つ オーラを研ぎ澄ます 名門老舗の矜持。
2012年発行 「日本の革 5号」より
無性にリーガルが履きたい。
トラッド回帰という追い風が琴線をかき鳴らしているのは確かだけれども、海外の靴まで視野に入れれば候補となるブランドはいくつも見つかるのに、天秤にかけるとリーガルのほうに心が傾く。もちろん、そこにはオリンピックで日本人を応援する気分に近い感情もある。しかし同郷のよしみ、というだけでは表現しきれない何かがある。
一言で言えば、海外勢と比べても引けを取らない歴史があるからではないか。たとえばここで紹介したローファーやウイングチップはその誕生以来、現役でつくり続けられている字句どおりのロングセラーである。もちろん部材などのブラッシュアップは図られているが、基本となる構造やデザインは往年のまま。ここまで息の長いモデルは世界広しといえども、そうはない。バランスのいい値づけも賞賛に値する。それは年代後半の紳士靴バブルに踊らされなかったリーガルの美徳である。
歴史の積み重ねが伝統=トラッドになる。その名が日本に登場して半世紀を超えたリーガルには本物のみが具えるオーラがある。一切のムダをそぎ落としたクリーンなスタイルを有するモデルはもともとのポテンシャルが高かったため、愚直なまでにオリジンを守り続けたことで、本物としての輪郭がくっきりと浮かび上がったのだ。カタチだけ真似た〝なんちゃってトラッドシューズ〞とは、説得力がまるで違う。その重みは時を重ねるのと比例して増していくものであり、リーガルのそれらのモデルは、いまこのときもエイジングが進んでいる。トラッドはビジネススタイルにおいては普遍の存在であり、ファッションシーンにおいても間違いなく、繰り返す。たとえいっとき、下駄箱の奥底にしまわれたとしても、頑強なグッドイヤーウエルト製法でつくられたリーガルの靴は、いとも簡単に息を吹き返す。そして、学生時代の友人との再会で決まって感じるぎこちなさや気恥ずかしさがほんの一瞬で過ぎ去るように、履き手の足にすぐに打ち解けてくれるだろう。一足もっておいて損はない、というセールストークがあるが、それはリーガルのスタンダードナンバーにこそふさわしい。
日光の金谷ホテルはいまも往時の佇まいそのままの姿で営まれており、一歩足を踏み入れると時がとまってしまったかのような錯覚を覚えるが、モダンなリーガルコーポレーション本社の一角にある「リーガルアーカイブス」はあれとよく似た感覚を味わうことができる。
よく使い込まれた什器に整然と並んでいるのは、リーガルの歴代の靴や研究のために仕入れた欧米の靴、およそ2500足。やはり国内外から集められた、足と靴にまつわる書物5000冊。そのほか、歴史を示す資料や写真、工具、機械の数々。「リーガルアーカイブス」とは、おもに社員や業界の関係者に開放される資料館である。
その資料館の館長は、リーガル、いやトラッドをよく知る者として、豊富な知識と紳士然とした語り口で訪れた者を悠久のロマンへといざなう。
西村勝三と大倉喜八郎という靴業界の祖が蒔いた種が結実した、日本製靴(1902年創業)を前身とするリーガルコーポレーション。その生い立ちから、日露戦争用に出発してその後軍需産業として発展し、経緯、1961年の米ブラウン社(リーガルブランドを所有する会社)との技術提携、官需から民需への転換期となった、戦後のメンズファッションを創造したヴァン・リーガル、大阪万博のイベントのひとつであるタイムカプセルに皮革産業を代表して納められた靴、日本製靴からのCIの果断、紳士靴のデザインのあれこれ…といった具合に、館長の話は一向に尽きることがない。ロマンチックな物語を裏付ける靴や資料に直に触れ、目を通すこともできる。文明開化以降の日本という国の変遷を靴という一産業から切り取ることもできて、なんとも面白い。
こういう背景こそが、本物とそうでないものの決定的な差だ。それを整備し、開放しているところは名門の面目躍如といったところだが、世界を見渡しても、民間でここまでの規模の資料館は数える程であろう。まさに文化。いま、リーガルを履きたいと思わせる理由は、ここに極まる。節度ある大人に、これ以上の靴はない。
その資料館にはプレミアものの欧米の靴もずらりと揃う。靴好きにはたまらない空間だ。
軍人が履くブーツを製造するために輸入されたミシン。手前には修理見本とグッドイヤーウエルト製法を解説するために裁断された靴が。
国内外の靴が2,500足揃うが、まだ展示していない靴がその3倍はあるという。
足と靴に関する内外の書物は5,000冊以上。
軍需産業だったことを物語る写真。当時は工場に軍人が入り靴を厳しくチェックしていた。