Creative: Matsuoka Hikaku
松岡皮革:静謐な存在感が際立たせる 卓越した柔らかさ 皮革産地に根ざす技術が感動を生み出す
2022年取材
皮革産地として知られる、兵庫県たつの市。日本有数の生産量、クオリティーを誇る町から新たな地域ブランド「タツノレザー」を若きつくり手たちが立ち上げた。東京のブルックリンとして話題のエリア、蔵前や、再開発が進む東京・渋谷のランドマーク、ミヤシタパークなど、各地でポップアップイベントを開催。産地のものづくりの魅力を発信。レザーファンはもちろん、若い世代からの支持も広がっている。
なかでも、中心メンバーの一社、松岡皮革が異彩を放つ。自社ブランド「Matsuoka Tannery」のウォレットコレクションのカラー展開はブラックのみ。シンプルなデザインでレザーの持ち味を最大限引き出す。革との相性によって、クールさ、ワイルドさだけではない、多彩なニュアンスで魅了する。派手さはないが、存在感たっぷりだ。
ポップアップイベントでは、若い女性が次々と同社の財布を手にとり、「手触りがいい」「こんなに柔らかい革ははじめて」「ふっくらとしていて心地いい」と感激。販売スタッフによる製品説明やポップにも頼らず、手触りの第一印象からレザーの魅力がしっかりと伝わっている。いまでは完売するアイテムも多く、生産が追いつかないほど。
革製品に馴染みのない若い女性を惹きつけ、感動させているのは、ソフトなタッチ感。同社が拠点とする沢田地区は、古くから工業用手袋の生産が盛ん。手袋に必要とされるのは、なんといっても柔らかさ。手肌と一体となるような質感が重視される。
「鞣し、染色、加脂など、それぞれのプロセスで独自のノウハウ、レシピを蓄積しています。子どものころは、あちこちでミシンとクリッカーの音が響いていましたね。最盛期には24時間稼働していたと聞いています。子どものころから工場にもよく出入りし、遊び場でした。中学に進学する前には家業を手伝いはじめ、いつもものづくりが身近にありました。そんな活気を取り戻したい」と松岡皮革 松岡哲矢さん。
若い世代の交流はつくり手同士でも活発。国産天然皮革の魅力を発信する人気イベント「日本革市」で注目の新進メーカー DIECI-LABO代表 田村晃輔さんを通して、新進クリエイターとのコラボレーションし、センスや感性に刺激を受けている。彼らの反応、意見をフィードバックし、革づくりをブラッシュアップ。
「タンナーはこれまで待つ姿勢というか、取引先からの発注があって成立する仕事ですが、クリエイターの皆さんと出会って刺激を受け、こちらからも積極的に提案しています。手間を惜しまず、先代から受け継いだ革づくりを自分らしく味つけして、クオリティーを高めていきたいですね」(松岡さん)
「東京レザーフェア」の出展時には、ブラックで統一されたソフトレザーを展示した同社ブースが目をひく。若い世代のエンドユーザーやクリエイターとつながるタンナーは貴重。感覚が共有できるものづくりのパートナーとして信頼が寄せられる。