Creative: Secaicho Union

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世界長ユニオン:世界に誇る手縫いの技 ハンドソーン・ウェルテッド

世界長ユニオン世界に誇る手縫いの技
ハンドソーン・ウェルテッド

ハンドソーン・ウェルテッド製法を一躍有名にした世界長ユニオン。
大きな長所がありながら量産化に向かないとされた伝統製法は同社の試行錯誤と高い技術力で世に広まる。
「世界に誇る靴づくり」の現場を追った。

2012年発行 「日本の革 5号」より

高級革靴の製法といえば、「グッドイヤーウェルト製法」と「マッケイ製法」がまず頭に浮かぶ。前者は頑丈さ、後者は良好な履き心地が特長で、ともに長い歴史を有しながらいまなお愛好者は多い。だが近年、この両者の利点を併せ持つ製法が注目を集めている。ハンドソーン・ウェルテッド製法(以下ハンドソーン製法)だ。新しい製法ではない。むしろ、グッドイヤーウェルト製法の原型として、起源は約200年前にさかのぼる。ハンドソーン製法は昔ながらの手作業が基本となるため、手間と技術力の面で基本的には量産化には向かない。コストもかかるため、一般にはなかなか手が出せない靴となる。
そんなハンドソーン製法による靴の量産化を実現したのが、世界長ユニオン。ブランド「ユニオンインペリアル」は優れた履き心地と大量生産ならではのお手頃な価格で強い人気を集めている。

ハンドソーン・ウェルテッド製法

グッドイヤーウェルト製法は中底とウェルトを縫う際にリブが媒介となるが、ハンドソーン製法ではリブの代わりに中底に溝をつくり 直接縫い付ける。溝はリブほど高さがないため中物コルクを薄くできる。履き始めの沈み込みは少なく高いフィット感が得られる所以 だ。一針一針を手で締めているため、足の力が加わる場所に適度なゆるみが生まれ、足になじみやすいのも利点。また、マッケイ製法のように地面から靴内部に達する縫い目がないため、耐水性にも優れている。

ハンドソーン製法によるローファーはかかとの密着感が抜群。独自染料で手染めした革の艶も美しい。45,150円(掲載当時)

木型に忠実なフォルムを生むハンドソーン製法らしく、アウトサイドの曲線が美しいセミブローグ。45,150円(掲載当時)


「ハンドソーン製法は、グッドイヤー製法で使うリブ(中底のつまみ部分)を必要としません。だからソールの返りが良く足あたりはソフト。中底とウェルトを直接手縫いするため、堅牢性も十分です」と企画開発部・小田哲史さんは高い機能性を紹介する。
また、曲線の美しいシルエットもハンドソーン製法ならでは。小田さんの言葉通りリブがないため、底付けでたゆみなく木型通りのフォルムを表現しやすいのだ。同社では日本人の足に合わせヒールカップを欧米のそれより小さめに設計しているが、そんな気配りもハンドソーン製法だからこそ十分に活きてくる。では、世界長ユニオンはいかにしてこの伝統的製法の量産化を可能にしたのだろうか。

広大な工場内は各工程に分かれる。動線に沿って歩くごとに完成に近づいていく。様々な製法で一日約100足を生産する

かけるひと手間が、
靴の輝きを引き出す

「世界に誇る靴づくり」を掲げ1952年に創業した世界長ユニオン(当時はユニオンロイヤル)は、イタリアの老舗靴メーカー・マレリーと技術提携。グッドイヤーが一般的だった当時、マレリー社が得意とするマッケイ製法をいち早く導入し、1970年代から80年代は「マッケイのユニオン」として業界に独自の地位を占めるまでになった。だが、90年代に入ると他メーカーでもマッケイ製法が一般的になり、差別化が難しい状況に。ここから、世界長ユニオンの試行錯誤がはじまった。「グッドイヤー製法を改良したボロネーゼ式グッドイヤー製法を考案。セレクトショップとコラボレーションするなど、とにかく他にはないことをやろうと必死でした」
その「なんでもやってみよう」という精神が実り、2007年にハンドソーン製法にたどり着く。柔らかな履き心地と丈夫さを兼ね備えた靴に社員たちは魅了され、ここに新たなる活路を見出した。そして生産体制を確立。サンプルや底付けといった根幹の部分は国内の工場が担当し製甲は海外の工場で行うことで、世界でも稀なハンドソーン靴の量産化を実現した。
ここでひとつ疑問をお持ちの方もいるだろう。同じような生産体制を敷けばどこでも世界長ユニオンのように大量生産ができるのではないか。だが、ハンドソーン製法は一朝一夕でモノにはできない。時間が必要だ。「模索を続けていた90年代、熟練の職人たちが生産工場を周り、たくさんの時間をかけて丁寧に技術指導を行ってきた。その結果、ハンドソーン製法にも対応できる職人が育った。各現場が変わらぬ技術力を持っていることが強みです」

技術にこだわり続けた歴史がある。そしてそれはいまも変わらない。千葉県の鎌ヶ谷市にある同社工場では、熟練の職人が黙々と作業を続ける。出し縫いやコバ処理、仕上げにいたるまで、それぞれが各工程のスペシャリストであり、職人の手から手に移るたびに靴はあるべきカタチへと近づいていく。技と魂のバトンタッチがゴールを迎え、靴は温かみのある光を放つ。「世界に誇る靴づくり」の姿が、ここにある。
常に新しいスタイルを求めることで、ものづくりの未来は拓かれる。だが、新しさは未知のものとは限らない。温故知新。先人たちへの敬意を持ち、伝統の技を学び、自らの腕を磨き続けていけば、どの世界にも〝古くて新しいハンドソーン製法〞はあるに違いない。

歴史を感じさせるミシンが同社の歩みを物語る。もちろんいまだ現役だ。

サンプル製作の初めは紙型づくりから。デザイン画通りに型を起こす。

紙型をもとに裁断を行う。革の状態によって使うべきパーツを判断。無駄のなさが腕の見せ所。

パーツが仕上がり製甲に入る。靴の曲線に合わせてたるみのないようにつくる。

生産に当たる工場。ハンドソーン製法以外にも、様々な製法が見られる。写真はキリで穴を開けながら手縫いするモカシーノ製法。

中物コルクを敷き詰める。

専用のミシンを使って出し縫い。

完成した靴は検品に入る。曲線具合や傷の有無などを厳しくチェック。